聖霊が臨む

序

　ルカはパウロから「愛する医者ルカ」（コロサイ4:14）と呼ばれ、さらに「同労者」（ピレモン24）とも呼ばれています。パウロが殉教する直前には、彼とともにローマにいたこともわかっています。（Ⅱテモテ4: 11）。

　ルカはパウロの第二回伝道旅行以後、ほとんどパウロと行動を共にしています。異邦人への使徒として主キリストに召されたパウロと歩みを共にしたルカは、イエス・キリストの福音の世界性を次第に深く認識していきました。自らも異邦人であるルカは、自分が異邦人にあてて福音書を書く使命が与えられたと思われます。

　ルカがこの福音書を記した目的は、その序文（1: 1～4）のところで明らかにされています。ローマの高官と考えられるテオフィロという人物に当てて書かれているからです。テオフィロが既に信仰を持っていたのであれば、その信仰を強めるため、またもし彼が求道者であるなら、イエス様を救い主として受け入れ、決心に導くために書いたのでしょう。しかし、ルカはテオフィロ一人のためにこの福音書を書いたのではありません。ローマ帝国の各地の異邦人社会から回心する人々の為にも書いたのです。

1.聖霊が臨む（ルカ1:26～45）

　ルカは、イエス様の生涯を、その誕生や公生涯から書き始めるのではなく「主に先立って」（17節） 歩む人、バプテスマのヨハネの誕生の予告から始めました。御使いの告知を信じなかったザカリヤは、男の子が誕生し、ヨハネと名付けるまでものが言えなくなりました。

　26節からは、ガリラヤ地方の町ナザレでの出来事です。ザカリヤへの告知があってから、6ヶ月後、同じ御使いガブリエルがマリアに現れました。御使いはマリアが神から受ける恵みについて語り始めました。それが救い主イエス様の誕生の告知でした。

　「恐れることはありません、マリア。あなたは神から恵みを受けたのです。 見なさい。あなたは身ごもって、男の子を産みます。その名をイエスとつけなさい。」（30,31節）

　マリアは御使いの言葉に説明を求めました（34節）。御使いは彼女に答えました。「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたをおおいます。それゆえ、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれます。」（35節）

　救い主には2つの必要な条件があります。罪人である私たち人間を救うためには、その救い主は私たちと同じ人間でなければならないこと。しかも、私たちの罪を背負って死に、罪の贖いをするには、その人に罪をあってはならないことです（Ⅰペテロ2:22,24）。普通の出生によって誕生する者の中には、この条件を満たし得る者は一人もいません（ローマ3:23）。そう考えてくると、処女降誕と言う超自然的な神のみわざは、まさに必要不可欠なことだったと言えます。聖霊が処女マリアの上に臨み、神のみわざにより、聖なる救い主が誕生したのです。

　マリアはエリサベツの懐妊を神のしるしとして告げられ（ルカ1:36）、マリアは御使いの言葉を信じました（38節）。それで彼女はエリサベツの住むユダの町に向かいました。この訪問はマリアにとって大きな喜びとなり、確信を持つ結果となりました。エリサベツは聖霊に満たされて語りました（42～45節）。

2.マリアの讃歌（ルカ1:46～56）

　エリサベツの言葉を聞いて、マリアは主を賛美しました。マリアは、まだ救い主の誕生を目の当たりにしていないのに、自分の身に起こったことの故に、既に全世界に及ぶ救いが全て成就してしまったかのように、途中からは過去形で歌いました （51～54節）。それは救い主を宿した自分が、卑しいはしためであるのに、主が目を留めてくださったこと（48節）、そして、その救いを彼女が悟ったからです。神がその救いのみわざを、このようにして始めてくださったからには、それは完成したのと同じであると希望を持ったのです。

　マリアは「その御名は聖なるもの」（49節）と歌いました。この聖さは単なる汚れの反対の意味だけではありません。神があらゆる被造物を超えて偉大な方であることを「聖なるもの」という言葉で表しました。神ご自身の力や栄光、ご自身そのものを現そうとする聖さのゆえに、低い者が高くされ、高ぶっている者が低くされるのです（51～52節）。マリアのように、私たちもこの素晴らしい主を賛美しましょう！