カエサルに上訴

序

　パウロはエルサレムからカイサリアに護送され、ユダヤ教側の暗殺を免れました。24章には、フェリクス総督の前での裁判の様子が記されており、弁護士テルティロの訴えは2～8節、それに対するパウロの反論が9～21節に記されています。

1.来たるべきさばき（使徒24:24～27）

　フェリクス総督による裁判後の2年間をパウロがどのように過ごしたかが、22～27節に記されています。総督にはユダヤ人である妻ドルシラがいたので（24節）、この道（キリスト教）について、パウロから話を聞きました。ドルシラはヘロデ・アグリッパⅠ世の娘です。父アグリッパが、このカイサリアで虫に食われて死んだ時（12:23）、6歳でした。成人し、エメサの王に嫁ぎましたが、フェリクスが総督に就任した後、彼女に一目惚れして離婚をそそのかし、ついに自分の妻にしたのです。彼女は父が殺したヤコブ、父が投獄したのに脱獄したペテロの思い出などから、キリスト教にかなりの関心を寄せていたと考えられます。

　パウロは、大胆にも、暗い過去のあるこの夫妻に最も重要なことを論じました。それは「正義と節制と来るべきさばき」（24:25）でした。すると総督は恐れを感じ、パウロを牢に帰らせ、2年間、軟禁させました。それはパウロから金を取る下心があったからです（26節）。それとともにユダヤ人の機嫌を取ろうとしたからです（27節）。

　来たるべきさばきの信仰は、人間の良心と深い関わりがあります。聖書では良心とは、善悪を判断できる良い心のことではなく、善悪を裁く神の審判があるという認識のことです。パウロが「神の前にも人の前にも責められることのない良心を保つように」（16節）したのは、この神の審判を信じていたからです。フェリクスは人妻を横取りにし、ユダヤ人に恩を売るために、裁判を曲げたりする不正をしながら、やがて来るさばきを聞いて恐れを感じたのも、この神の審判がある事実を知らされたからです。

　フェリクスは良心の呵責を覚えながら、また呼び出そうと呑気なことを考え（25節）、「今」という救いのチャンスを逃してしまったのです。

2.カエサルに上訴（使徒25:1～12）

　2年後に新しく赴任したポルキウス・フェストゥス総督によって再開された裁判の有り様が、25～26章に記されています。25章1～12節には、総督が再開した裁判の様子が記録されています。

　祭司長たちは、前の時と同じく裁判の名を借りて、パウロをカイサリアからエルサレムに連れ戻し、途中で殺そうと企んでいました（3節）。しかし、総督は、自分はまもなくカイサリアに戻るので、必要であれば自分と一緒にカイサリアに行くようにとユダヤ人たちに言いました（4,5節）。ユダヤ人たちはパウロの罪は、第1に律法違反、第2に宮を汚したこと、第3にローマ皇帝への反逆を訴えたのでしょう。カイサリアでの裁判で、パウロは「何の罪も犯してはいません」（8節）と弁明しました。

　この裁判はイエス様の時の裁判とよく似ています。偽証者たちは、「この人は『わたしは神の神殿を壊して、それを三日で立て直すことができる』」（マタイ26:61）と言ったと訴えました。また、「この者はわが民を惑わし、カエサルに税金を納めることを禁じ、自分は王キリストだと言っている」（ルカ23:2）と訴えました。そして、イエス様は裁判の結果、死なれました。私たちの罪のために死んでくださいました。

　パウロはこの裁判の結果では、死に至らず、ローマで福音を伝えることができました。パウロには、まだ果たさなければならない使命、神の御計画があったからです。主イエス様は死を通して全世界に救いをもたす使命を全うされ、神はパウロを、この時は生かすことによって、その救いを全世界に証しさせたのです。 カエサルへの上訴が承認された事実を通して、私たちは神が人間の歴史と生活を支配し、ご自分の約束と計画を達成される方であることを教えられます。もし、この上訴が許可されなかったら、キリスト教の初期の歴史が大きく変わっていたでしょう。神はご自分の計画を実行するために、世界の権力者を動かし、歴史を導かれました。そして、これからもそのようにされます。私たちはこの世にあって、たとえ力がないように思えても、神がおられるから大丈夫なのです。「神が私たちの見方であるなら、だれが私たちに敵対できるでしょう。」（ローマ8:31）神を信頼していきましょう！