主の前で

序

　民数記31章には、イスラエルがミディアン人を打ち、ヨルダン川東部地方を完全に制圧し、またカナン侵入の準備を完全に整えたことが書かれています。ルベン族とガド族の人々は、ヨルダン東部の土地を自分たちの所有地として割り当ててほしいと要求しました。（32:1～5節）

　主が相続地をくじで割り当てるよう命じたおられた（26:55）のに、それを無視して、ヤゼルとギルアデの地を相続地として要求しました。彼らは多くの家畜を持っており、ヨルダン川の東の土地は家畜に適していたからです。彼らはまだ見ぬカナンの地よりも、今見ているヨルダンの東の土地の肥沃さにひかれたのです。彼らは主の御心を求めず、モーセとイスラエルの指導者たちに、その地を要求したのです。彼らは目先の利得、自分の願いによって判断し、行動しました。

　モーセは、「どうして、イスラエルの子らの意気をくじいて、主が与えてくださった地へ渡らせないようにするのか。」（民数記 32:7）と、彼らの不信仰を責めました。それに対して、彼らは交換条件を出し、ヨルダン川西岸占領に参加して戦うと言いました（16～19節）。

1.ガドとルベン（民数記32:20～42）

　モーセは彼らの提案を受け入れました。モーセは「主の前で」と言う言葉で彼らに注意しました（20,21,22節）。彼らは言われたとおりに、妻たちと子どもたち以外は、武装して、「主の前で」戦うと答えました（25～27節）。

　こうしたやりとりの後に、モーセはがガド族、ルベン族、マナセの半部族に対して、シホンの王国とオグの王国の領土を与えました（33節）。ガドとルベンの二部族が交渉したときにいなかったマナセの半部族も、ギルアデの地を貰えることになったいきさつは記されていませんが、彼らはその地を攻め取ると、そこに自分たちの名をつけました。ヤイルとノバフがその代表でした（41,42節）。このように、自分たちの利益と名誉を求める人々が、ヨルダン川の東の土地を得たのです。しかし、その土地は後のイスラエルの歴史を見ると、イスラエルが外敵に攻められるときに、真っ先に攻撃にさらされる土地でした。自分の欲に惹かれて、自分の力で手に入れるものは、最善の祝福に欠けるのです。

2.主の前で生きる（出エジプト20:3）

　「あなたには、わたし以外に、ほかの神があってはならない。」（出エジプト 20:3）ここの「わたし以外に」は、別訳で「わたしの前に」となっています。即ち、主の前に偶像の神々を持ってはならないという注意です。全てを見ておられる神が、私たちが他の神々を持つ事を非常に嫌われます。なぜなら、真の神は、唯一の方であり、他に神はないからです。人が創り出した偶像の神々、そして天使、死者などを礼拝する事は偶像礼拝です。さらに聖書は貪欲が偶像礼拝であると教えています（コロサイ3:5）。ガド族、ルベン族、マナセの半部族は自分の欲に惹かれて、失敗しました。彼らは「主の前で」戦うと口では答えましたが、「主の前に」は歩んでいなかったのです。

　また、ここでは不敬虔に対しても注意されています。どういうことが不敬虔かと言えば、神を私たちの神として礼拝せず、栄光を返さないことです。旧約聖書のイスラエルの民の歴史は、まさにそのことの実例です。イスラエルの民はカナンに定着後、まことの神を礼拝することから離れました。二部族とマナセの半部族以外の人たちも、主の前に生きていなかったのです。そのため神は預言者たちを遣わし、繰り返し悔い改めを迫られました。それでも聞こうとしない不敬虔に対して、神は、異教徒の支配と捕囚をもって、ご自身が礼拝され栄光を現される方であることを明らかにされました。

　それに対して、主の前にいつも生きた人の代表はダビデでした。「私はいつも主を前にしています。主が私の右におられるので私は揺るがされることがありません。」（詩篇 16:8） ダビデは様々な困難の中にあっても、主の前に生きていたので、揺るがされる事はありませんでした。また、ダビデは罪を犯した時、神の前で罪を犯したことを認めました。「私はあなたにただあなたの前に罪ある者です。私はあなたの目に悪であることを行いました。ですからあなたが宣告するときあなたは正しくさばくときあなたは清くあられます。」（詩篇 51:4）私たちは自分の罪を認めて悔い改め、主の前に生きましょう！