病を負われる主

序

　8章には3つの癒しの記事があり、一つ目はツァラアトの人の癒しです。当時その病気の人は隔離され、町の外に住まなければなりませんでした。その人は「主よ、お心一つで私をきよくすることがおできになります」（2節）と、自分の願いをイエス様に押し付けずに、御心ならば私を治してくださいと言いました。その上、彼は「私をきよくすることがおできになります」と、イエス様を救い主として認め信じました。イエス様はその人に触れて「わたしの心だ。きよくなれ。」（3節）とおっしゃり、病を癒され、彼に「誰にも話さないように」と言われました。それは、イエス様には人々を罪から救う大きな使命があり、人間的な誉れを求めるために奇跡を行ったのではないからです。

　第二の癒しはカペナウムで起こりました。ここはローマ軍の駐屯部隊があり、百人隊長は百人の兵士を指揮する隊長でした。彼は異邦人でしたがユダヤ人にもまさる信仰を持っていたので、イエス様はこの百人隊長の信仰を褒められました（10節）。彼はイエス様のメシアとしての権威を認めました。「お言葉をください。そうすれば私の僕は癒されます。」（8節）とイエス様を信じたのです。神の言葉は生きていて、力があるのです（ヘブル4:12）。終わりの時、天の御国での祝宴には全世界から信じる者が集められますが、席に着くはずだった選民ユダヤ人は不信仰のゆえに外に追い出されるのです（11,12節）。

1.病を負われる主（マタイ8:14～17）

　第三の奇跡はペテロの姑の熱病の癒しです。イエス様は彼女の手に触れ、癒されました。彼女は癒された感謝と喜びで、イエス様をもてなしました（15節）。この日の夕方、大勢の病人がイエス様によって癒されました（16節）。それはイザヤ53:4の預言が成就するためでした。これは苦難の僕としてのメシアについて預言されている箇所に含まれている言葉です。イエス様はメシアとして、私たちの病気を身に引き受け、取り去ってくださり、それだけではなく、私たちの罪を引き受けて十字架にかかり、救ってくださったのです。イエス様は病人たちを癒すことによって、メシアとしての権威を持っていることを明らかにされました。私たちはこのイエス様をメシアとして信じ、権威ある御言葉に信頼し、ペテロの姑のように喜びと感謝を持って主に仕えていきましょう。

2.主に従う（マタイ8:18～22）

　イエス様は弟子たちに、向こう岸に渡るように命じられました。そこに一人の律法学者がやって、「どこに行かれても、私はついて行きます」と言いました。イエス様は彼に、弟子の道が非常に厳しいものであることを示されました。「人の子」は、イエス様がご自身を指して用いられた称号です。これはダニエル7:13にある、終末の時に現れるメシアとしての権威を持つ存在を表した言葉です。当時のユダヤ人とって、メシアという称号は、異邦人の支配からユダヤ人を救出し、独立へ導く王という政治的な意味に理解されていました。それゆえ、イエス様は故意にメシアと言う称号を避けて「人の子」と言う称号を用いられたのです。そして「人の子」と言う表現に独特の意味を与えられました。終末の時に栄光の雲に乗って、この世を裁くために来る審判者としての権威を与えられた者と言う意味であったこの称号を、イエス様は人の姿をとってこの世に来られ、人々の罪のために苦しみ、十字架にかかって死に三日目に復活する者としてのメシアを意味する称号として用いられました。

　「狐には穴があり、空の鳥には巣があるが、人の子には、枕するところもありません」（20節）と言われました。しかもイエス様は、律法学者やパリサイ人を始めとするユダヤ人の上層部から敵視され、命までも狙われていました。イエス様の弟子になるには命まで捨てる覚悟がなければなりません。

　別の一人の弟子は「父を葬ることをお許しください」と言いました。当時のユダヤ人社会では、父親の権威が強く、息子は父親の死を見届けて葬ってからでないと、自由に行動することができませんでした。しかし、父を葬ってからイエス様に従って行くのでは、いつになるかわかりません。この弟子はすぐに従う意思がなく、その言い訳に、父親の葬りの許可を申し出たのです。イエス様は決して親を粗末にして良いと言われたのではありません。十戒にははっきりと「あなたの父と母を敬え」（出エジプト20:12）と書いてあります。この人は従う気がないのに、それを家族や自分の置かれた環境のせいにしていたからです。犠牲を覚悟して、イエス様にすぐに従いましょう！