ダビデ哀歌を歌う

序

　第Ⅰサムエル記31章には、イスラエルとペリシテとの戦いにおいて、サウル王とその息子たち、並びに多くの兵士たちが命を落としたことが記されています。また第Ⅱサムエル記は、ダビデの治世を扱っており、第Ⅰ歴代11～29章と時代が並行しています。第Ⅱサムエル1:1～16は、ツィクラグのダビデのもとに一人のアマレク人が来てサウルの死を知らせ、自分がサウルを殺したと申し立てたので、ダビデが彼を、主に油注がれた人を殺した罪で処刑したいきさつが記されています。

　このアマレク人の報告は、第Ⅰサムエル31章の戦死の記事と相違がありますが、時間的な面を考えればアマレク人の報告が全く事実無根とは言えないかもしれません。あるいは、既に死んでいるサウルの遺体から、王冠と腕輪を剥ぎ取ってきただけの可能性があるとも言われています。とにかく、そのアマレク人はダビデに、サウルの死を知らせることで、褒美を期待しました。しかしダビデは、その知らせを聞いて、自分の衣を裂き、泣き悲しみ、夕方まで断食し（Ⅱサムエル1:11~12）、そのアマレク人を処刑しました。これはダビデがサウルの死を、イスラエルの王の死として受け止めたことを意味しています。

1.ダビデ哀歌を歌う（1:17～27）

　17～27節は、ダビデがサウルとヨナタンのために作った哀歌です。ここでは、ダビデはサウルをイスラエルの「君主」（19節、新改訳第3版の訳:「誉れ」）と呼びました。ダビデはサウルに何度も命を狙われましたが、サウルが主に油注がれたイスラエルの王なので、彼を尊び愛しました。「ああ、勇士たちは倒れた」（19,25,27節）と、三度繰り返して歌われているように、イスラエルのために戦ったサウルとヨナタンの勇敢な姿を歌い、彼らの死を悲しんだのです。彼らは戦いに備えて、盾に油を塗る（21節）習慣がありました（イザヤ21:5）が、もはやそのことがなされないのです。

　彼らは弓と剣において勇者であり、「愛される立派な人だった」（Ⅱサムエル1:23）と歌われています。サウルへの個人的な恨み事はそこにはありません。この哀歌の中では、特にヨナタンとの友情の思い出は際立っています。ダビデはこの哀歌を、弓を教える際に歌うように命じました（18節）。「ヤシャルの書」は古いイスラエルの詩歌集であろうと思われます（ヨシュア10:12~13）。

2.敵を愛せよ（マタイ5:44）

　ダビデの思いは、御子キリストが「わたしはあなたがたに言います。自分の敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。」（マタイ5:44）　と命じられた御言葉を思い出させます。ダビデは自分の敵であるサウルを愛したのです。

　また、ヨナタンがどれほどダビデを愛していたか、ということがこの歌からわかります。第Ⅰサムエル18:1では、「ヨナタンの心はダビデの心に結びついた」とあります。同じ価値観、同じ使命感（ヨナタンも、神を信じ国のために戦う勇者でした:Ⅰサムエル14章）を持っていることで結ばれたのです。ヨナタンは自分自身のようにダビデを愛するようになりました。イエス様は、「あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい」（マタイ22:39）と言われましたが、ヨナタンのダビデに対する愛は、イエス様の基準に合う素晴らしい愛でした。私たちはこのような愛を持って兄弟姉妹や友達を愛していきましょう。

　イエス様は私たちを友と呼ばれました。「わたしはもう、あなたがたをしもべとは呼びません。しもべなら主人が何をするのか知らないからです。わたしはあなたがたを友と呼びました。父から聞いたことをすべて、あなたがたには知らせたからです」。（ヨハネ15:15）

　イエス様は私たちを選び、友と呼んでくださいました。私たちが選んだのではありません。主が私たちの友となってくださいました。「自らを低くして、死にまで、それも十字架の死にまで従われました。」（ピリピ2:8）神が私たちに近づいてくださり、私たちを引き寄せてくださらない限り、私たちは神に近づくことができないのです。主が私たちを友と呼んでくださるということの中に、神のへりくだりと、人知を遥かに超えた神の愛があります。私たちはこの最愛の友、イエス様の御手にしっかり握りしめられている恵みに感謝し、主の恵みに留まりたいと思います。そして、ダビデやヨナタンに倣って、隣人を愛する者に変えられていきましょう！