見捨てない主

序

　サウル王はダビデを妬みました（Ⅰサムエル18:7～9）。そのためダビデは、自分の命を救うために宮廷から逃げ出しました（19章）。20～31章はダビデの亡命のことが記されています。イスラエルの祭司アヒメレクでさえも、ダビデに接することを恐れていました（21:1 ∼6）。イスラエルの敵であるペリシテ人にダビデは疑われたため、彼は身の危険を感じ、気が変になったふりまでしました（21:13）。詩篇56篇はその時の歌です。

　「神よ　私をあわれんでください。人が私を踏みつけ一日中戦って私を虐げているからです。」（詩篇56:1）

　ここには虐げられているダビデの姿があります。しかし、その中で主に信頼しています（3節）。そして、みことばをほめたたえているのです。「神にあって私はみことばをほめたたえます。神に信頼し私は何も恐れません。肉なる者が私に何をなし得るでしょう。」（詩篇56:4）みことばこそ私たちの慰めであり希望なのです。

　ダビデは涙を流し、祈っています。「どうか私の涙を　あなたの皮袋に蓄えてください。」（8節）　私たちの流す涙の一滴一滴を、神はご存知なのです。

1.アドラムの洞穴（Ⅰサムエル22:1～5）

　神による守りを感謝し、ガテを去ったダビデは、再びユダに戻り、アドラムの洞穴に隠れました。ダビデの全家族は、サウル王の憎しみを恐れてここに来ました（1節）。さらに困窮している者、負債のある者、不満のある者が集まってきて、ダビデを首領としました（2節）。ダビデ（先祖のルツはモアブ人）は両親をモアブ王に預けました（3∼4節）。　

　詩篇34篇にはその頃のことが書かれています。ダビデは自分の失敗の経験をもとに、真に主を恐れることの大切さ（11節）と、その祝福を子孫たちに教えようとしたのです。神は祈りに答えてくださり、守りを与えられました（7,10,20節）。洞穴で暮らしていても、神が近くにおられるという信仰は大きな慰めでした（18節）。

　「主は心の打ち砕かれた者の近くにおられ霊の砕かれた者を救われる。」　

2.ダビデの罪のために（Ⅰサムエル22:6～23）

　サウル王は槍を手にし、「誰も私のことを思って心を痛めることをしない」（8節）と怒っていました。その時、ドエグが、祭司アヒメレクがダビデに食料と剣を与えたと伝えました（10節）。そのためアヒメレクだけではなく祭司一族が呼び出されました。アヒメレクは、サウルとダビデの不仲については知らなかったようです。アヒメレクが知っていたのは、ダビデがサウルの最も忠実な家来であり、王の婿で、しかも尊敬されている人物であるということだけでした（14節）。これに対しサウルは、アヒメレクがダビデに加担したことで、祭司の一族を殺害しました。ただ一人だけ生き延びたエブヤタルが、脱出したのです。ダビデはアヒメレク一族の絶滅の責任が自分にあると認めました（22節）。その罪は償いようもありませんでした。ダビデは罪人ですが、神はこのダビデを用いられたのです。

　その時のことを歌ったのが詩篇52篇です。1節で、「なぜおまえは悪を誇りとするのか」と叫んでいます。ドエグの悪に対する叫びです。悪への神の審判を宣言します（5節）。ダビデの状況は、すぐには改善されていきませんでしたが、神に感謝し、神の御名を待ち望みました（9節）。

　「私はとこしえに感謝します。あなたのみわざのゆえに。私はあなたにある敬虔な人たちの前ですばらしいあなたの御名を待ち望みます。」　　（詩篇 52:9） 　このダビデの子孫から救い主、イエス・キリストがお生まれになったのです。このお方は、神が人となられた罪のないお方です。キリストが私たちのために十字架にかかり、死んでくださいました。それゆえ、私たちの罪は赦され神の子とされたのです。罪を犯し失敗したダビデを神はお見捨てになりませんでした。そして、私たちも、お見捨てにならないのです。（ヘブル13:5～6）。

　「金銭を愛する生活をせずに、今持っているもので満足しなさい。主ご自身が『わたしは決してあなたを見放さず、あなたを見捨てない』と言われたからです。ですから、私たちは確信をもって言います。『主は私の助け手。私は恐れない。 人が私に何ができるだろうか。』」 （ヘブル13:5～6）

　私たちも失敗した時、罪を犯した時、悔い改めて神のみもとに立ち返りましょう！