サウル、油注がれる

序

　エリがその息子たちを正しく育てることに失敗したように、サムエルも自分の息子たちの教育に失敗しました（Ⅰサムエル8:3）。そのため、サムエルに後継者がないため、イスラエルの民は他の国のように、王を与えて欲しいと願いました。イスラエルの民にとって一番大切な事は、神に従うことでした。王を求めたこの時点で、イスラエルの民は神の民としての特別な使命を拒否しようとしたのです（12～20節）。民はイスラエルに王が立てられることによって、家族や最も良い所有物を王に取り上げられることになるのです。ここでは王は、何々を「取り」と言う言葉が繰り返し出てきます（11～18節）。このような経緯で、神は最初の王としてサウルを選ばれました。

1.サウル、油を注がれる（10:1～16）

　サウルは、士師の時代に危うく絶滅するところであったベニヤミン族（士師19～21章）の出身でした。サウルは裕福な家の子で、人並み外れて美しく背の高い人でした（Ⅰサムエル9:2）。父の頼みに従って、いなくなった雌ろばを三日間も探しましたが、見つからなかったので、予見者を訪ねました。しかし、連れの若者に教えられるまで、サウルは神の人のことを知らず、神に祈ろうともしませんでした。一方サムエルは、主からイスラエルの王となる人が導かれてくると示され、サウルを歓迎しました（15～17節）。そして次の日、サウルにイスラエルの王となることを告げました。

　このように青年サウルがある日突然、イスラエルの王に選ばれることになったのです。サウルは密かな油注ぎを受けた後、神による2つのしるしによって励ましを受けました（10:1～8）。それらのしるしとは、その日に起こる出来事をサムエルが言い当てる事と、主の霊がサウルの上に下る事でした。そして、サムエルはサウルに主の霊が臨むなら、その時は手当たり次第なんでもするようにと語りました。しかし、七日間待つようにという条件付きでした（8節）。

　サウルは、サムエルが告げたすべてのしるしを経験して、主が自分をイスラエルの王とされたことを確信しました。しかし、彼はそのことを他の人に話しませんでした（14～16節）。また、ミツパで王として選ばれた時は、荷物の間に身を隠していました（22節）。そして、王になってからも彼の王権を認めない人々を責めないで、黙っていました（27節）。このようにサウルは謙虚に王としてのスタートを切りました。

2.待てなかったサウル（13:1～15）

　ヤベシュ・ギルアデの人々がアンモン人の攻撃を受け、サウルに助けを求めてきました。（11章）サウルが牛を追って畑から帰ってきたところでした（5節）。彼はヤベシュの人々のことを聞いて立ち上がりました。サウルに神の霊が臨み、全イスラエルを率いてアンモン人を打ち破りました。こうしてサウルの王権は確立しました。 　一方サムエルは、今までの自分の歩みが潔白であったことを民に語りました。（12章）そして、イスラエルの人々に、王と共に主を恐れ、主に聞き従うべきことを勧めました（14節）。

　13章ではサウルの最初の失敗が記されています。13:1～14では、サウルの子ヨナタンがペリシテ人の守備隊長を倒したため、ペリシテ軍の攻撃を受けるようになったことが記されています。 サウルはサムエルが来るまで7日間待てと命じられていました。（10:8）ところが、サムエルの来るのが遅れ、民の多くがサウルを離れ、敵が今にも攻めかかってくるような有様でした（13:8）。そこでサウルは、自分で全焼のいけにえを献げてしまったのです。忍耐が必要だった（ヘブル10:36）のに残念なことでした。その後、サムエルが到着し、サウルを責め、主の御言葉に従って待てなかったので彼の支配は長くは続かないと宣言しました（Ⅰサムエル13:13～14）。人々がサウルを見捨てても、主は人々が見捨てたサウルによって大勝利を与え、サウルの王権を確立しようとされていたのです。サウルは、人々が離れていくことに焦りを覚え、見えるところに動揺し、人知を遥かに超えた主のご計画と力を信じることができなかったのです。私たちはどうでしょうか。

　「神はわれらの避け所また力。苦しむときそこにある強き助け。」（詩篇 46:1）