御名のために

序

　イザヤ書46章には、主が神の民を背負われることが記されています。古代オリエント世界では、戦争はそれぞれの国の神々の戦いであると考えられていました。彼らは戦争に負けると偶像を担いで逃げたり、捨てて逃げることもありました。イザヤは、強力なバビロンという国も必ず滅び、その偶像の無力さが表される日が来ることを預言しました。実際、バビロンの神々、ベルやネボは敵に荷物として運ばれ、持ち去られたのです（46:1,2）。しかし、聖書の神は私たちを背負ってくださるお方です。しかも胎内から老いるまで、永遠にです（3,4節）。主は日々、私たちの重荷を担い、救ってくださるのです（詩篇68:19）。イエス様は、「すべて疲れた人、重荷を負っている人はわたしのもとに来なさい」（マタイ11:28）と招いてくださっています。イエス様のもとに行き休みましょう！

　47章はバビロンの破滅について記されています。バビロンについては13:1～14:23にも述べられています。47章は、神がバビロンに対して語りかける形式をとって、高ぶった者たちを神が低くされると、語っています。安住しているバビロンに災いがすぐにやってくることが強調されています。それは、バビロンが瞬く間に一切を失い滅びる預言です（8,9節）。バビロンは自分だけは特別だと高ぶっていました。しかし、そのバビロンが実際に滅ぼされたのです。バビロンでは星の位置から将来を占う占星術師がいました。やがて、彼ら自身が滅ぼされ自分を救うこともできないのですから、ましてや占星術ごときで他の人を救えるはずもありません（12∼15節）。

1.預言と成就（1～8節）

　48章では、イスラエルのバビロンからの解放が記されています。イザヤはバビロン捕囚の約150年も前に、イスラエル（南ユダ）が神の裁きを受け、滅亡することを預言し（6:11,12）、その預言通りに、イスラエルの民はバビロンに捕囚となりました。また、イザヤが約200年前に預言していたバビロン捕囚からの解放は、紀元前538年にペルシアのキュロスがバビロンを征服し、イスラエル人のエルサレム帰還を許可したときに成就しました。

　「聞け」と言う命令は48章の中に2回登場します（1,12節）。1節には、ヤコブ、イスラエル、ユダの名前が出てきます。主はヤコブの家に向かって語られました。ヤコブとは、ユダヤ人の肉的な面を強調する呼び名です。イスラエルは神の民という名誉ある呼び名です。ユダはヤコブの四男ですが神の民イスラエルの家系を継承する特権が与えられていました（創世記49:8~10）。本来は肉的なものが、神によって特権をあたえられたのです。それにもかかわらず、彼らは主に対して誠実と正義を以って、関わることをしなかったのです。その結果、バビロンの捕囚となってしまったのです。「あなた（ヤコブの家）は頑なであり、首筋は鉄の腱（うなじがこわいと同じ意味）、額は青銅（厚顔無恥）」（イザヤ48:4）なのです。そうしたヤコブの家の者（バビロンで捕囚となっている民）に、これを聞けと主は語られたのです。主のことばの内容は新しいことであり、素晴らしい神の御業でした。それは具体的には、バビロンの捕囚からの解放です。ここにはなぜ、神が実際に起こることを予め預言するのかの理由が語られています。つまり、イスラエルの民の心が頑な故なのです。「わたしは、かねてからあなたに告げ、まだ起こらないうちに聞かせたのだ。『私の偶像がこれをした』とか『私の彫像や鋳た像がこれを命じた』とかあなたが言わないようにするためだ。」（5節）。

2.わたしのために（9～14節）

　不信仰と罪の面から見れば、イスラエルの民は滅ぼされるはずでしたが、神はご自分の御名のゆえに怒りを遅くし、救われる者を残されました（9節）。10節には錬る価値が銀の場合とは違うとあります。銀は価値のあるものであるために精錬する価値はあっても、イスラエルの民それ自体には精錬するほどの価値は無いという意味です。しかし、神はご自分の名のためにイスラエルの民に新しいことをされるのです。「わたしのため」が繰り返されています（11節）。価値無きイスラエルが救われました。私たちも同じです。神の一方的な恵みによって救われたのです（エペソ2:8）。