感謝のいけにえを

序

　アサフは詩篇73～83篇の表題にも見られるダビデ王時代の有名な音楽家です（第Ⅰ歴代6:39、15:17）。この詩篇50篇は神への礼拝とは何であるかを教えるもので、詩篇49篇はすべての人間の金銭欲に対する警告のメッセージです。人には死が必ず訪れるのに、この世での金銭、富だけを求める生き方を戒めています。それに対して、50篇は神への感謝こそが、幸いを回復する道であることを教えています。

1.神への礼拝とは（1～15節）

　神は昔シナイ山（モーセの時）に現れたように、今、シオンに現れ、ご自分の民を裁かれます（現在あるいは終末の裁き）。天と地はその証人です。神は光をシオンから全地に放たれます（2節）。神の現れです。3節の黙ってはおられないとは、正しい神は間違った礼拝と隣人に対する悪を見逃されないという意味です。5節のわたしにある敬虔な者とは、神の恵みによって召され、神との契約関係に入ったイスラエルの民のことであり（出エジプト記19:5）、それは即ち私たちのことです。神の恵みを受けたものは、その責任をも問われるのです。

　全焼のささげ物（詩篇50:8）とは、毎日、朝夕ささげられる動物のいけにえです（レビ6:9~13）。神がお求めになるのは、牛や羊のいけにえではありません。神への感謝のいけにえです（詩篇50:14、ヘブル13:15、第Ⅰテサロニケ5:16~18）。詩篇26:7では、神の宮に来た人が感謝の声を響き渡らせと、また詩篇100:4では、感謝しつつ、主の門にと、賛美をもって神のところに来ることこそが真の礼拝なのです。

　また私たちに求められているのは、心からの神への祈りです（詩篇50:15）。ダニエル・デフォーの小説ロビンソン・クルーソーの中に次のような出来事があります。主人公ロビンソンは乗っていた船が難破し、一人孤島に漂着しました。熱病に冒され、死の恐れのほか何もない時、彼は持っていた聖書を開きました。その箇所が詩篇50: 15でした。その御言葉通り、彼は苦難の日に神を呼び求め、新しい歩みを始めました。神が求められるのは砕かれた心からの祈りなのです。

2.神を忘れる者に対する叱責（16～23節）

　16節では悪しき者と呼ばれる人がいます。口先では契約を守ると言いますが、実行しないのです。その人は、神のことばをうしろに投げ捨てます（17節）。その結果、盗み、姦通、欺き、悪口に満ちた人生となってしまいます（18~20）。18節の親しくするは「分け前とする」の意味で、自分も同じことを行うことです。彼らは自分を神と等しいものと考えました（21節）。そのような高ぶった思いが、悪の根源なのです。神は一時的に、その様なことに対して黙って忍耐しておられました。しかし、神は、高ぶってバベルの塔を建てようとした人たちを裁かれた（創世記11:8）ように、悪しき歩みを裁かれます。

　また、悪しき者は神を忘れる者とも呼ばれます（詩篇50:22）。神の戒めの意味を理解せず、従わない者です。ですから、神は、よくわきまえよと警告されるのです。彼らには感謝がありません。それで、家庭は崩壊し、社会に憎しみが満ちるのです。感謝の土台は十字架です。神は万物を創造し、義と裁きの権威を持っておられます。その方がイエス・キリストの十字架によって私たちの罪を赦してくださるのです。ですから、この十字架の恵みを知ったパウロは神に絶えず感謝し（エペソ1:16）、あらゆる場合に、感謝を持ってささげる祈りと願いを神に捧げるように勧めているのです（ピリピ4:6）。

　23節の感謝のいけにえとは、神への正しい礼拝のことで7～15節の要約です。自分の道を正しくする人とは、16～20節に述べられた神の叱責に正しく答えて従う者のことです。そのような人たちに対して神の救いを、神ご自身が見せてくださるという約束がここにあります。