私に倣う者になりなさい

序

　コリント人への手紙第一が書かれたのはおそらく紀元55年頃、パウロの3年間のエペソ滞在の終わり近くだったと思われます（使徒19章のエペソ滞在中）。 パウロは次の冬をコリントで過ごす計画を立てており実際にそのようにしました（第一コリント16章5-8節、使徒の働きに20章2-3節）。

　コリント教会の人々がパウロに相談するためにエペソに派遣されました。そこでパウロはこの手紙を書きました。彼は前にも手紙を少なくとも1通書きましたが、現在は失われています（第一コリント5章9節）。この手紙の中でパウロはいくつかの問題に対応しています。教会の分裂（1章10-24節）、不道徳の問題（5章、6章12-20節）、お互いの法律問題（6章1-8節）、主の晩餐の不適切な実践（14章17-34節）などがありました。

1. 教会内の分裂（1章）と神の知恵（2章）

　コリント教会には党派的な分裂がありました。信徒たちはそれぞれ、ある特定の教師と自分を関係づけて、自分はパウロに属する、自分はアポロに属すると争っていました。パウロはそのような分裂が、どのように間違ったことであるかを教えました。そのような間違いの原因は、この世の知恵の尊重にありました。コリント教会の人たちは誤りに陥って、この世の知恵が教会の中でも有効であると思い込みました。そこでパウロは彼らにもう一度、世の知恵の虚しさを悟らせようとしました。パウロはまことの知者になるためには愚かになるように、神の知恵を受けるために自分の知恵を捨てるようにと教えています。この世の知恵は神の前では愚かだからです。

　パウロは1章20節で神はこの世の知恵を愚かにされたと記しました。コリント教会の人たちはこの世の知恵を尊びました。そしてその誤りから、ある特定の教師と自分たちを関係づけ、教会内に分裂を生じさせたのです。そこでパウロは誰も人間を誇ってはいけないと注意しました。

2. 全ては神のもの（3章）

　パウロは、3章後半で、すべては神のものであることを人々に教えます。すべてのものの例として牧師、教師があります。教会の徳を高めるために神が牧師、教師を用意されたのです。また世界も教会すなわち私たちのものです。イエス・キリストは、天も地も、すべてのものに対して権威をお持ちの方です。世界を支配しておられるお方です。また、いのちも死も教会のものです。現在も未来も全て教会のものです。その理由は教会がキリストのものであるという事実にあります。教会はキリストのものです。教会はキリストの血を持って贖われたものです。キリストは教会の頭です。教会はキリストのからだです。このようにキリストにあって教会はすべてのものを持っているのです。キリストは神のものです。キリストは父なる神の命令によって救いのみわざを成し遂げられました。私たちはキリストのものですから、すべてのものを持っています。教会における牧師、教師も、世界も、いのちも死も、現在のものも未来のものも、全て私たちのものです。終わりの時には私たちはキリストの栄光に預かることができるのです。

3. 私に倣うものになれ（4章）

　パウロは教会の分裂がいかに愚かであり、またあってはならないものであるかを示すために、教会での牧師、教師というものは、キリストがご自分の血を持って買い取られた教会を建て上げるためにキリストが用いられる器に過ぎないのだということを教えました。そして、パウロとアポロのことを例として具体的に教えました。このようなパウロの視野から考えると、ここで私に倣うものになれと言って自分をコリント教会の手本として勧めていることは、何か矛盾しているように思われます。しかしパウロはここで、党派的な精神で私に倣うものになりなさいと言っているのではありません。また高ぶりの心を持って私に倣うものとなれと要求しているのでもありません。パウロは、自分はコリント教会の人たちにとって霊的な父であると主張しています（16節）。それはキリストがパウロを遣わされ福音を述べ伝えられたからです。キリストご自身が、御霊によってパウロの述べ伝えた福音を用いてコリントの人々を回心へと導かれたのです。キリストとその御言葉、福音なしには私たちは何もすることはできません。ただ神はそのために働き人を用いられるのです。パウロがキリスト・イエスにあって福音によってあなた方を生んだと言っているのはそのことなのです。そのような意味でパウロはコリント教会の人々にとって霊的な父ですから、私に倣うものになりなさいと勧めているのです。

　11章1節にはパウロは私がキリストに倣うようにあなた方も私に倣うものになりなさいと勧めています。パウロがキリストに倣うように、パウロに倣いなさいと言うのです。パウロに倣うとは、パウロと共にキリストに倣うことに他ならないのです。キリストこそ、全てのキリスト者がいつも倣わなければならない最高の模範なのです。私たちは、自分がキリストに倣うことにおいて、他の人にキリストに倣うことを勧めるものとならなければなりません。